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「ねぇ、ねぇ………にぃちゃんっ」
小さな手が俺のぼろぼろになった袖を引いた。
「お水、ちょうだい。」
砂だらけでざらついた頬をした顔が、俺に向かって笑う。
「あぁ…ちょっと待ってろよ。」
俺はそう言って、持っていたナップザックを夕陽で赤く染まった砂の上へ降ろした。
音を立てて吹き抜けていく風が俺と弟の髪をなぶっていく。
もう中身の少なくなった水筒を取り出す。
「ほら。」
「ありがとっ。」
嬉しそうな声と笑顔が、少しだけ俺の口元を弛ませた。
俺と七つ違いの弟は、もう9歳になるのにまだどこか舌っ足らずな印象がある。
でもそれは俺がずっと弟を、ルンを見続けてきたからなのかもしれなかった。
水筒を受け取って、それに口を付けようとして、でもルンは寸前で思いとどまった。
「…にぃちゃんは?」
食べるものも飲むものも、もう底をつきかけて、それでもこんな砂の大地を彷迷う。
言葉にならない不安をルンも感じているんだろうか。
「……俺はいいよ。喉、渇いてないから。」
俺の言葉に頷いて、ルンは水を飲み始めた。
そう、おまえはそのままでいいんだ。
大したあてもなくこんなところまで連れてきてしまったのは俺なんだから。
「ねぇ、にぃちゃん。」
ルンが水筒を返しながら俺に言った。
「もう、すぐそこだよね……?」
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