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明るいはずの言葉が隠しきれない翳りを帯びた。
ふぅ、と俺から逸らされた目が映すのは真っ赤な夕陽を囲うように空に架かった虹だ。
「そうだよ。……ごめん、もう疲れてるよな。」
いつの頃からか消えることを忘れた七色のアーチ。
見上げれば首が痛くなるほど大きく見えるところにいるのにまだその袂は陽炎が揺らめいていて判然としなかった。
遠いのか近いのかなんて本当は俺にももうわからない。
再び、風が吹いた。カラカラに水気を失ったそれは見渡す限りの砂漠の中で、砂の丘の上に小さな波紋を刻んでいく。
「…行こう。」
「うん……。」
一回り小さなルンの手を引いて、俺はもう一度大きなアーチへ向かって歩き出した。
ルンを連れてこうやって歩き出した時から、もうどれくらい経ったろう?
始まりの、あの仄暗い灰色の街が脳裏をかすめた。
原因のわからない病。
上がり続ける物価。
横行する犯罪。
決定的に足りない金を人々が奪い合って暮らす日々。
そこは、所謂スラム街だった。
父も母も病気で亡くしたのは、ちょうどルンが物心ついた頃だったと思う。
それからは盗んで、奪って命をつなぐ日々。
似たような時期に身寄りを失った奴らと、子供だけ集まってで助け合って生きた。
彼らは全員がある意味では敵で、食料を奪う悪者でもあったけれど、どんな不満があっても手を取らなければ生きられない。
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