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冬になる度に人が死に、細い路地裏には命の灯火を消した肉のカタマリが転がっているのがさして珍しくもない光景になる。
そんな絶望に満ちた日々の中で、俺は『伝説』に縋った。
“あの虹の向こうには、白いユートピアがある。その名は天弓の国。不幸など一つもない理想郷。”
そう。あの年はまた流行病が来たんだ。
一人、また一人と一緒にいたナカマたちが動かなくなっていった。
此処にいてもどうせ死ぬんだって思ったんだよ。
俺達を置き去りにしてった父さんや母さんみたいに。
でも、どうせ死ぬんだったらあの灰色の街を抜け出したかった。
全部、全部諦めてでも夢を信じてみたかった、夢を信じて死にたかった。
―――ふと気付くと握った小さな手がふらふらと揺れていた。
夕陽はいつの間にか地平線の向こうへと沈んでいる。
「ルン。」
睡魔に捕らわれて、こっくりこっくりと揺れている頭が健気に俺を見返した。
「今日はここで休もう。…明日はきっと着くから。」
船をこぐのよりちょっとだけ深くルンの頭が頷く。
どこまでも先の見えない砂漠の中に俺は古びた天幕を張った。
ルンを毛布にくるんでそのそばに俺も横になる。
砂漠の夜は冷える。経験から知った。
俺のすぐ横でルンは既に寝息をたてていた。
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