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誰かの吹く口笛みたいに、高く澄んだ音が聞こえる。
快い音だ。
ぼんやりと目を開くと空以外の何かが見えた。
慌てて起き上がる。
目に映ったのは俺の張った古い天幕でも、その向こうにあったはずの砂漠でもなかった。
柔らかい布団、清潔な白いシーツ。簡素で、それでいて品の良さそうな調度品。
聞こえてくる澄んだ音は、どうやら小鳥のさえずりだったようだ。
灰色の街を出て、世界は俺が思ったほど腐ってないことがわかった。
俺みたいな半端者が馴染むことなんかできなかったけど、ほんの少しでも“幸せ”なるものが実在することも知った。
でも、こんな穏やかで、美しい雰囲気は俺には見たこともないものだった。
ましてやそんな部屋の中に、自分がいるなんて。
そのとき、部屋に一つだけあった気の扉が音を立てた。
良い夢をみていたところにに水をかけられたみたいに、一気に現実が押し寄せてくる。
ここは何処だ?
何で俺達はここにいる?
何があった?
隣で幸せそうな寝顔を浮かべるルンを庇うようにして、俺は咄嗟に身構えた。
しかし、開いた扉の向こうから顔をのぞかせたのは、意外なことに小綺麗な格好をした少女だった。
「良かった、目が覚めたのね。気分はどう?」
「……誰だ。」
だからといってそんな言葉を気安く信じられるほど俺は馬鹿じゃない。
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