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低く問うと、彼女は不快そうに眉を寄せた。
「助けてあげた人に向かって随分ひどい口のききかたするのね。……私はアユミ。あなたこそ名前は?」
入ってきた少女は、確かに凶器らしきものも持ってはいなかったし、不穏な気配も微塵も感じられなかった。
そういえば完全に意識を失っていたにも関わらず俺もルンも何もされていない。
「………クオンだ。その……悪かった。助けてくれた…って?」
「あなた達が行き倒れているところに偶然通りかかったの。声をかけても目を覚まさなかったから、知り合いに応援を頼んでここまで運んでもらったのよ。」
どうやら俺はとんだ人を疑ってしまったらしい。気まずくては目をそらすと、少女―アユミは気にした様子もなくコロコロと笑った。
それから笑いをおさめて嫌に真剣な様子で聞いてくる。
「どこか具合の悪いところはない?」
言われて、自分の状態を省みた。よく眠れたからか頭の中もすっきりとしているし、身体にも傷はない。
「……ああ、大丈夫。」
そのとき、俺の隣の布団がごそごそと動いた。
「…にぃちゃん?」
寝ぼけ眼のルンが俺のことを見上げてくる。どうやら俺とアユミの話し声で目を覚ましてしまったらしい。
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