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…………。
嫌な時間がこくこくと流れている。
宅配便だと高をくくり、居留守を使ってみたまではよかったんだ。
…よかったよな?
いや、そこはもうよかったことにしよう。
でないと話が進まない。
きっとおそらくいけなかったのは、その後の自分の愚かなこと極まりないあの行動。
居留守を使った本人が登場なんて…眠くて理性が働かなかったんだ許してくれ…!
と今更言い訳したところで遅い、か。
あぁ、空気を読まなければならないのは私に違いない。
どうしよう…私はどうしたらいい?
しかもさらに悪いことには。
目の前で自分を凝視してくるその男が、明らかに宅配便ではない雰囲気を醸し出しまくっている。
…烏の濡れ羽色をした髪にあまりにも整った顔のパーツの数々が、溢れるばかりの妖艶さを放ち。
すらりとした体躯にぴったりあった黒いスーツはきっと高いやつで。
…もしこの人物が宅配便のアルバイトなら、世の奥様方が即倒してしまうだろう。
私に呆れているのか、その表情は少し強ばっているが…それを差し引いてもイケメンという部類に入る。
…でも、今はそんな彼の美麗さなど正直至極どうでもいい。
このなんともいえない空気を打開しなければ、私のガラスのように繊細な心がばらばらと砕け散ってしまうんだ。
くそ、どうにかしろ自分。
お前ならできるはずだ、やればできる子だろ?
…私にとっては永遠に感じられたが恐らくは数秒であろう空白ののち、私は意を決して自らの重い口を開いた。
「はは、いい天気だな?」
……っ、何を口走ってるんだ私は!
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