第一話~本能寺の変~

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「こやつはな、これまで数多くの武功を立てておる。しかも本来なら前田家の 当主だった男だ。のう、慶郎。」 衝撃の事実だった。 この前田家といえば利家が当主である。 その利家の席に本来ならこの黒装束の男が座っていたなんて……。 「ですが……仮にこの男が武功を立ててたとしても何故手柄にはならなかった のですか…?」 蘭丸の疑問も最もである。 家督を継いでなくとも武功を立てれば認められるものだ。 それに何故この男ではなく利家が前田家を継いだのかも気になった。 「さっきも言ったであろう。こやつにはいざという時、俺の首を取れと言って あるのだ。その男を有名にさせてどうするのだ。ははは。それにこいつは又左 (利家)と非常に仲が悪くてのう。」 つまり揉み消されたのだ。 「ふふ……。家督を与えずに武勲も立てさせぬ。その方がこいつも殺しやすい だろう。」 かなり危険な事実を述べている信長だが、当の本人は暇そうに耳の穴に指を 突っ込んで暇そうにしている。 「しかし……信じられませぬ……。この方が仮に前田家の方だとしても……何故 こんなにも忍術が……。前田家は武家です…。」 「理由は簡単だ。慶郎は元はといえば滝川家の出だ。滝川が忍の心得があるの は知っておろう?」 蘭丸はますます分からなくなった。 滝川といえば滝川一益だろう? 滝川家はもともと甲賀の忍なのは知っていた。 しかし今は織田家の家老である。 「ではこの男は……本来なら大名格では……!」 蘭丸の言葉に信長がほくそ笑んだ。 すると黒装束の男が口を開いた。 「あのさぁ…。あんたらさっきから呑気に語ってるけどさ。自分らの置かれた 状況分かってるの?」 男の最もな意見に二人は目を見合せた。 「ぷあははは!最もだな!」 こんな状況にありながらも今日の信長様は本当に良く笑う。 蘭丸は心の中でそう思っていた。
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