第一話~本能寺の変~

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「で、如何致すのかな?逃げるのなら助太刀するが。」 男の言葉に信長は首を振る。 「もうよい。俺はもうここまでだ。」 平静を装ってはいるが手傷を追っている。 危険な状態だ。 そんな自分が今から逃げるのも困難だ。 そうなれば自分の首を取らせる為の黒装束の男も自分の為に必死で戦うだろ う。 それで討死して自分の首を取れたのでは意味がない。 その事は良く分かっていた。 「慶郎。蘭丸を連れて逃げろ。そして、これからは存分に名を挙げ自由に生き ろ。前田慶次郎利益としてな!」 「大殿、それは皮肉ですか?拙者ももう四十を越えてるのですよ。何を今 更……。」 またしても男は正論を返す。 「なあにこれからだ。お前などは死にたくても死ねない身体を持ってるのだか らな。」 余計なお世話だと言わんばかりの顔で信長を睨み付ける男。 「さあ、始めるか。」信長の言葉に蘭丸が制止を掛ける。 「大殿!蘭丸も、蘭丸もお供致します!主君に最期まで仕える!それが小姓で あります!!」 涙を流しながら訴える蘭丸に信長が頷く。 「で、あるか。」 穏やかな笑顔で信長が着物の懐から扇子を取りだした。 「人間五十年、下天の内をくらぶれば……」ゆっくりと舞を踊る。 「夢幻の如くなり……」 飛び散る火の粉が蛍のように信長を照らした。 「一度生を受け……。滅せぬもののあるべきか……。」 信長が一番愛したと言われる敦盛であった。
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