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「わ……若様…。申し訳ありません…」 さっきまで勢い付いていた紅の若者が急にシュンとなる。多分この低い声の男 が大将格だろう。 男が馬上から冷たい視線で子供を見下ろす。 「小僧、どうした?何でこんな場所で泣いてる?」既に泣き止んでいたもの の、まだ涙の跡がはっきりと分かる顔をしている男の子。彼の問いに答える事 なく馬に乗る異様な風体の男の姿をジッと見つめている。 「小僧、俺の手首を両手で掴め。」そう言って自分の片手を男の子の方へと腕 を差し出した。その言葉と言動に男の子はキョトンとした表情を浮かべる。 「さっさとしろ!」少し苛立ちが籠った声は自然と大声になった。その叫びに 男の子はおろか周りの若者たちまでビクッと身体を震わす。 恐る恐る手を伸ばし男の手首を両手で握ると彼は力任せに男の子を持ち上げ馬 に乗せる。そして自分の前にチョコンと座らせると周りの若者たちに向かい 「俺はこの小僧とその辺を一駆けしてくる。お前らは先に帰ってろ。」と言い 放つ。紅の若者が「わ、若様!警護の者も付けずに出掛けるなんて危険
すぎま す!おやめくだされ!」少々怯えながら男に意見する。 「自分の領地を馬で走るのに危険も糞もあるか。それに誰に止められようと俺 は行く。」ぶっきらぼうにそう告げると馬を走らせる。 しかし少し進んだところで馬を止め振り返る。 「それとな……おい犬。俺を若と呼ぶのはやめろ。もう当主になったのだ。次 に若って言ったらその薄汚れた汚ねぇ首を胴から落とすぞ」紅の若者を睨みそ れだけ言い捨てると再び馬を走らせ山の方へ進んで行った。 その姿が見えなくなるまで恐怖で真っ青になった表情で見送る紅の若者たちが その場に取り残され呆然としていた。
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