第三話~傾奇者誕生~

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あれから数日のが経った頃、宗兵衛は父であ る滝川益氏に呼び出された。 その日は屋敷の中が酷く慌ただしかった。 内心、どきどきしながら益氏の待つ部屋の前 まで来ると、家来の若い侍が障子の前に片膝 を着いて座っていた。 宗兵衛に気付き会釈をすると 「殿、宗兵衛様がお越しになりました。」と冷淡な口調で話す。 「うむ、通せ。」 その言葉に若侍が障子を開けると宗兵衛に中 に入るように促す。 おずおずと室内に入った宗兵衛は家中の慌ただしさの理由を知った。 部屋の真ん中、つまり上座には父ではなく、父の弟であり滝川家の当主である 滝川一益が座っていたのだ。 一益は元々影に生きる忍の身でありながら士分を与えられた武将だった。 一益の隣に控える益氏が宗兵衛に話す。 「宗兵衛。大事な話がある。兄上、ご説明を……。」 「うむ。」 益氏に次いで一益が口を開く。 「宗兵衛。お前は今日より母のおはると共に前田家へ行け。」 「え!?」 仰天の顔で宗兵衛は一益と益氏を交互に見る。 「おはるがな…。前田利久殿に嫁ぐ事になったのだ。」 宗兵衛の実母である、おはるは益氏の側室の一人だった。 このおはるに一目惚れした前田利久が熱烈なまでにおはるを自分の正室にしたいと申し出たのだ。
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