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お前には不憫な思いをさせるかも知れぬがな……。許せ、宗兵衛……。」
益氏が申し訳ないと言った顔で宗兵衛を見つめる。
「安心致せ、前田家に行くとはいえお前にはたまに滝川家に来てもらう。お前 に武士と忍の心得をまだ教えておらぬからな。だから父と離れ離れになる訳で はない。」
一益の言葉には一族をいたわる優しさがあった。
その言葉に安心した宗兵衛はこくりと頷いた。
「よし、宗兵衛。お前は今日から慶次郎利益と名乗れ。滝川の家を出る以上、 お前には元服してもらう。」
これには益氏も驚いた。
宗兵衛はまだ十歳になったばかりである。 いくら何でも速すぎる。
「わしはな、この滝川家を大名にするのが夢だ。その夢を果たす為には常人と 同じ事をしていたのでは叶わぬ。だからな、例えどんなに些細で意味のない事 であっても人と違う事をする。それが後に大事に繋がると、わしはそう思って おる。」
一益の言葉は力が籠っており説得力があった。
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