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「ごめんね。あそこはおれだけの癒やしスポットなんだ」
目尻の下げられた今にも蕩けそうな飴色をした瞳に、少年はしばし心奪われた。
誰にだって大なり小なり自分だけのモノがある。
それを興味本位の他者に踏み躙られたく無い。
魅惑のさくらんぼ色の唇から出た言葉の返事を生徒は少しぼんやりした後、慌てて返した。
「こ、こっちこそ不躾な事を聞いてしまってすみません!」
最初の余裕は何処へやら、と言うような感じで、生徒はぺこりと頭を下げて人気のない廊下を走って行った。
きっと彼は園を攻略しに来たのだろう。
誰が何を言おうと園の事は語らない来栖に誰もがヤキモキし、そして誰もが『自分なら王子の秘密が暴けるかも…』と近寄ってくる。
確か昨日も一昨日も、毎回違う生徒にこの廊下で声をかけられた。
面倒臭くなったと小さく溜息を吐いて、来栖は不気味な第三保健室を目指した。
プロローグ・終
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