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「来栖くん、また園へ?」
彼ーー来栖日弓(くるす・ひゆみ)の向かう場所は、生徒が殆ど寄り付かない第三保健室。
第三保健室は無駄に広い一階校舎の一番端っこにある。
しかも北向きでいつも暗く、どことなくジメジメしている為、生徒達は無意識に他の保健室を使うのだ。
王子こと来栖少年はその不気味な第三保健室に脚繁く通っていると、閉鎖的な高等部校舎では格好の噂のネタになっていた。
「うん。そうだよ」
魅惑のさくらんぼ色の唇から、短い返事が返される。
声をした方を見たらやはり面識の無い、でもとても可愛らしい少年が優しい笑みを浮かべて長身の来栖を見上げる。
その小作りな顔に埋め込まれた二つの瞳がキラリと光る。
『園には何があるの?』
『ソレを知ったら王子と仲良くなれる?』
『何百いる生徒の中で僕が一番に王子の園を知れるかもしれない!』
ある程度大きな会社社長の次男坊な来栖は、つい近寄ってくる人物のその胸の内を探ってしまう癖があった。
良い顔をして擦り寄ってくる奴がいつも善人な訳ではない。
利用するのはいいが利用されるのは嫌だ。
無意識下のプライドで養われた洞察力で垣間見た少年のキラキラとした好奇心に来栖は(おれって心汚いかも…)なんて思った。
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