660人が本棚に入れています
本棚に追加
/158ページ
可笑しそうにケラケラ笑うおじさんが、「頑張れ」と俺とミーアの頭を撫でた。
普段なら俺は恥ずかしいので抵抗するのだが、今はひたすら眠くて抗う気力が起きない。
「ジンおじさん……馬車ありがとう……」
「いやいや、気にすんな。独り身で趣味も無ぇから金余ってんだよ」
むにゃむにゃと眠そうに頭を下げるミーアに、照れ笑いしながらそう言ったおじさん。
別に今のは昨日の事を引きずって言った訳では無さそうだ。
「それじゃ……行ってきます」
「行ってきます……!」
「「「行ってらっしゃい!」」」
学園は全寮制。
家族ともこれで暫しのお別れだ。
馬車の扉を閉めた後も、ガラス越しに手を降ってくる父さんや母さん、そしておじさんを見てそんな事を考えた。
お互いが見えなくなるまで手を振り続け、ふぅ、とため息を一つ吐く。
そして、隣に座っている幼なじみの顔を覗き込み、こいつが俺と同じ事を考えていることに気がついた。
「……ミーア」
「……アレク」
「「おやすみ」」
目を閉じると共に遠のく意識。
俺とミーアは、失った睡眠時間を取り戻す様に眠りについた。
ガタンッ!
「うぉ!?」
突如響いた衝撃に、夢の世界から無理矢理引き戻される。
寝惚けた頭で暫く思考し、馬車の車輪が石でも踏んだのだろうと結論付けた。
ちらりと横を見てみると、ミーアはまだ寝ていた。
いい夢でも見ているのか、時折顔がにやけている。
……よく笑うやつだとは思っていたが、寝顔までにやけているとは思ってなかった。
あまり人の寝顔をまじまじと見るのは良い趣味とは言い難いので、俺は視線を窓の外へと向ける事にした。
ガラスの向こうに見えて来たのは、所々に見張り塔が作られている大きな純白の外壁。
どうやら、調度良いタイミングで起きた様だ。
最初のコメントを投稿しよう!