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奴の口を塞ぐために振るった剣が避けられる。
結果、また奴の口から仲間の無惨な死に様を聞かされる。
「魔法使いの女は……これは傑作だぞ。生きたままグールに食われたそうだ。屍を食うグールに生きたままだ。どうだ、面白いとは思わんか?」
「黙れと言っている!!!」
「あまりに叫んでうるさいから、戦士を殺してその肉で口を塞いだと言っていたぞ。ハッハッハッ、さすがだ」
剣を振るう。避けられる。
奴の口を黙らせられない。
心に負の感情が渦巻く。
憎い。仲間を苦しめた魔族が。
憎い。それを嬉々として語るこいつが。
憎い。仲間を守れなかった、自分が。
「がァァ───ァッ!!!!」
「外で戦っていた兵士共もあらかた殺し尽くした様だ」
「うるさい!! うるさい!!」
「もし今万が一私を殺したところで、魔族が地上を征服する日は近いだろう。お前はなぜ今戦っている?」
「黙れ黙れ黙れ!!!」
「くくくっ……どうした。剣が鈍ったぞ?」
仲間が死んだ……戦争は魔族の勝ちだ……それでも、俺は──!!
「まだ剣を取るか。それでは──」
奴の腕が、剣撃を掻い潜って俺の頭部へと伸びた。
ヒヤリと背筋が凍った様な感覚に陥る。
ヤバい、死──
「──止めだ」
奴の手が俺に触れた瞬間、流れて来たのは攻撃魔法の魔力では無く、何かの映像。
俺の脳内で、奴が見せているであろう映像が延々と流れ始めた。
──それは、俺が愛した女性。
『約束……必ず帰って来て……』
戦いが終わったら、一緒に暮らそうと約束した、世界中の誰よりも愛しい女性。
その、彼女の。
首。
眩しい位に光る金色の髪が乾いた血で赤黒く染まり、閉ざされた瞳は未来永劫開く事は無い。
もう、俺に笑いかける事は無い。
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