第三章 ある魔法使いは卑怯者

16/16
660人が本棚に入れています
本棚に追加
/158ページ
有り得ない。きっと聞き間違いだ。だって俺は── 「……お前は、“魔力切れ”で気絶したからここに運ばれて来たんだ」 ──魔法何て、一発も使っていないのだから。 どういう事だ? 俺は何も出来ないままやられたんじゃ無かったのか? ……本当に、俺が魔力切れで倒れたのならば……あれは、あの夢は……。 夢じゃ無かった……? 「どうした? 急に黙り込んで」 バーコル先生の心配そうな声が聞こえたが、それに反応見せる程の余裕が俺の頭には無かった。 あの文字は夢じゃ無かったのか? あの金色の炎は、あの圧倒的な力は、あの追い詰めたアルフレッドの姿は……? もし、もしもだ。 あれが全部現実で起こった事だとすると、あの力は俺の中に眠っていると言うことだ。 それなら、あの力を“意のまま”に扱える様になれたら……? 変わる。 変わるはずだ。今の現状が、理不尽な現実が、無慈悲な苦しみが。 希望が見えた。真っ暗闇を突き抜ける、聖なる光が現れたのだ。 「おーい、ファイレック。大丈夫かー?」 ペチペチと頬に響く衝撃を受けて、ようやく俺の意識は目の前の現実に引き戻された。 「バーコル先生、俺部屋に戻ります」 「おい、ちょ」 ベッドから起き上がろうと体を動かすと、両肩を何やら押さえつけられ……。 「寝てろけが人!」 「うわ!」 ベッドに無理やり押し倒された。 俺、貞操の危機。 「魔力切れてるって言ってるだろうが。無理に動くな、今日は寝てろ。いいな?」 「……はい」 恐さに定評のあるバーコル先生に顔の近くで睨まれたら、ドキドキする前にビクビクしてしまう。 大人しく返事をした俺に、「よろしい」と一言洩らしたバーコル先生は、いつもの机に戻り書類を片付け始めた。 バーコル先生の言う通り、確かに疲れていた俺は直ぐに襲って来た睡魔に負け、重くなった瞼を閉じる。 俺は、学園に入ってから初めて心地好い眠りについた。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!