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気合いを入れもう一度ペンを握った時、廊下から足音が聞こえてきた。
足音はこの部屋の前で止まり、ノブがガチャリと音を立て扉が勢い良く開いた。
「勉強を頑張ってるアレクの為に、おじさんが夜食を持って来ましたよっと」
扉を蹴って入って来たのは、俺と同じ紺色の髪に眼鏡を掛けているどこかだらしない雰囲気を醸し出している男性。
ジンおじさんだ。
……だらしない雰囲気なのは無精髭が生えているせいかもしれない。
剃れば良いのに。
「おーおー、熱心に勉強してんなぁ。おじさんてっきり別の事に精を出してんのかと……」
「別の事ってなんだよ?」
「そりゃお前、思春期の男子が夜中に部屋で一人……言わせんな恥ずかしい」
「精を出すって別にそういう意味じゃねぇよ」
顔を合わせて早々下ネタとは、おじさんらしいが……。
「夜食ありがとう。そこに置いといて」
「おう」
おじさんが持ってきてくれた夜食を机の空いている所に置いて貰い、また調査報告書へとペンを走らせようとした所で、調査報告書を一度おじさんに見てもらおうと思っていた事を思い出した。
「おじさん、ちょっと……」
顔を上げ、首だけをおじさんが居るであろう方向に向けると、そこに目的の人物は居なかった。
あれ? と頭に疑問符が浮かんだ瞬間、背後からギシッとベッドが軋む音が。
椅子に座ったまま体を捻りベッドを確認すると、俺のベッドに横になり、俺の枕に顔を埋めているおじさんの姿が目に入った。
何してんだこのおっさん……きめぇ。
「何だ、呼んだか?」
枕に顔を埋めたまま喋っているせいで、若干声が聞き取り難くなっている。
俺の顔が歪むのは、仕方がないと言えるだろう。
「何してんの?」
「お前のベッドに加齢臭を移している」
「出てけよ」
これが、おじさんのデフォルトだ。
おじさんの真面目な姿は数える程しか見たことが無い。
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