プロローグ

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赤い表紙のその本は見るだけでいかに長い間読まれてきたかが伺えるだろう。 思想家兼哲学者兼脳科学研究家マヌエルの「複数世界論」[2011] 早口言葉みたいだろ。 今日で通算29回目の読破なのだ。 生来、僕は人と関わることが好きではなかったので、行き付くところは書物だった訳である。 所謂本の虫という奴だ。 歴史書からラノベまで、ジャンルに糸目はつけない。 クラスの中でも学年でも一番本を読んだ自信がある。 自慢するようなことではないのだがな。 逆に運動を勉強も中の下。 冴えないってのは自分でもわかってる。 こぼれたため息は本の表紙にあたって消えた。 両手でしか持てないそれをそっと本棚にしまい、大きく欠伸。 「ふぁーぁ」 (…やっぱり凄い。とても半世紀前の人物とは思えないほどの想像力。自分の意識と複数の世界、じゃあ別世界が) 「むにゃむにゃ」 その日はそこで記憶が途絶えている。
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