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確認しようと、さらに覗きこもうとした時彼女が頭をあげて、俺をまっすぐ見た。
その瞳に光るものは存在していない。
彼女が泣いていなかったことにほっとしていると、彼女がまっすぐ俺を見据えて口を開いた。
「分かった。今までありがとう。……さようなら。」
刹那、彼女の言葉が脳をすり抜けた。
分かった?
ありがとう?
さよなら?
さっきまでのあの攻撃的な彼女はどこへいったんだ。
あまりに突然な彼女の態度の変化。唖然として彼女を見やると「チャリン……」という音とともに彼女が立ちあがり声をかける間もなく、彼女は軽く頭を下げて去って行った。
ただの一度も振り返ることなく。
呆気にとられてしばらく彼女の去っていた方向を見た後、ふとテーブルの上に目をやった。
そこには、五百円玉一つと百円玉一つ。
……彼女のアイスコーヒー代。
我に返って考える。
泣かなかった彼女。
コーヒー代を置いていった彼女。
そうしてその二つの状況をはっきり脳が理解した瞬間、俺の心臓がドクンっと大きく動いた。
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