Red -激昂-

2/14
前へ
/745ページ
次へ
「海外赴任の辞令が出た。……別れよう。」 会うのは二週間ぶり。 朝からウキウキ楽しみにして、可愛く見られたくて目一杯お洒落をしてきた。 それなのに。 待ち合わせのカフェで頼んだアイスコーヒーが届いた直後に、会いたくて仕方なかった恋人の大翔(ひろと)は、淡々とした口調でそう言った。 突然すぎて涙はおろか、言葉すら出てこない。 動揺しているのか手はアイスコーヒーの氷を溶かすようにストローで円を描き、その一方で、頭の中では冷静に彼の言葉を分析していた。 海外赴任。 分かる。 日本じゃない場所で働くこと。 別れよう。 これも言葉の持つ意味は分かる。 さよなら、ってこと。 そんな冷静な分析も虚しく、言われたことを受け入れたくないからなのか、言葉全体が持つ意味がちっとも胸にストンと落ちてこない。 海外赴任? 別れよう? グルグル回り続ける同じ単語。 つまり…… 行き着く答えは……、 頭の中で、脳みそをフル回転させて彼の言葉を飲み込もうとしていた私は、だいぶ長い時間沈黙していたらしい。 沈黙に耐えかねたのか、再び躊躇いがちに、でも決意を匂わせる口調で大翔が再び口を開いた。
/745ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2117人が本棚に入れています
本棚に追加