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「海外赴任の辞令が出た。……別れよう。」
会うのは二週間ぶり。
朝からウキウキ楽しみにして、可愛く見られたくて目一杯お洒落をしてきた。
それなのに。
待ち合わせのカフェで頼んだアイスコーヒーが届いた直後に、会いたくて仕方なかった恋人の大翔(ひろと)は、淡々とした口調でそう言った。
突然すぎて涙はおろか、言葉すら出てこない。
動揺しているのか手はアイスコーヒーの氷を溶かすようにストローで円を描き、その一方で、頭の中では冷静に彼の言葉を分析していた。
海外赴任。
分かる。
日本じゃない場所で働くこと。
別れよう。
これも言葉の持つ意味は分かる。
さよなら、ってこと。
そんな冷静な分析も虚しく、言われたことを受け入れたくないからなのか、言葉全体が持つ意味がちっとも胸にストンと落ちてこない。
海外赴任?
別れよう?
グルグル回り続ける同じ単語。
つまり……
行き着く答えは……、
頭の中で、脳みそをフル回転させて彼の言葉を飲み込もうとしていた私は、だいぶ長い時間沈黙していたらしい。
沈黙に耐えかねたのか、再び躊躇いがちに、でも決意を匂わせる口調で大翔が再び口を開いた。
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