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◇
「……そんなことないよ。話し合う必要ない、なんて思ってないよ。」
その時の俺は、ただただ彼女の剣幕に驚いていた。
未だ嘗て見たことのない彼女に、無意識に目は大きく開き、ゴクリと喉が上下する。
別れを切り出してしばらくは、何かを考えるような、言葉を探しているような、いたたまれない雰囲気を携えていた彼女から突如自分に向けられた、燃えるような激しい怒り。
予想だにしなかった、その展開。
彼女が見せたその思いがけない感情に戸惑い、まともな返しが出来なかった。
「そんなことないよ」なんて陳腐な切り返しで、今の彼女が納得するとは思えない。
だけどそれ以外の言葉を生み出せるほど、今の状況を飲み込みきれていなかった。
しばらくの、沈黙。
打破しようと視線を真っ直ぐ彼女に向けると、彼女の眼は鋭く光っていた。
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