未来ボタン

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「やっぱり…だめだよね…このボタンは押さない方が良いよね…」 アダムとイヴは知っていた。このボタンを押した瞬間、自分達は消えて無くなり、エデンの園は崩壊し、新たに陸地が生まれ、海が生まれ、森が生まれ、そして人間が生まれる。 このままボタンを押さなければ、ふたりはエデンの園で永久に暮らし、愛し合うことが出来るのだ。 「ううん…違うわ」 イヴは優しい笑顔を見せた。その笑顔はどこか悲しく、儚いものに見えた。 「確かに人間は…私達は汚れた愚かな生き物…でも、こんなに素敵で、安心出来る…愛し合うことが出来るじゃない、こんなに素晴らしいことが出来るのは、人間しかいない…だから」 「待ってよ!」 アダムは、イヴの言葉を遮り、彼女の手を強く握りしめた。驚いたようにイヴはアダムを見つめた。彼の顔は真剣だった。本当に、イヴを愛している。そんな表情だった。 「そんなことしたら、僕達消えてしまうんだよ!?そしたらもう君と」 さらにイヴが、アダムの言葉を遮った。 イヴはアダムの唇にそっと、自分の唇を重ねた。 こうして、彼に口づけをするのは、何回目だろう。こうして、抱き締めるのは、何回目だろう。 それを思い出すには、どうやら年を重ねた過ぎたようだ。 「消えても、ずっと一緒だよ」 イヴは唇を離して、そう呟いた。それと同時にそっと、ボタンを押した。 「ああ分かったよ…未来を人間達に託そう」 ふたりの体が消え始めた。まるで体が細かく分離して風に舞うように、天へと舞うふたりの破片。 そんな中、アダムとイヴは言った。 「愛してるよ」 イヴは完全に消え去る前、最後にもう一度、アダムに口づけをした。 アダムとイヴは知っていた。 この先、きっと荒んだ未来が待っている。 しかし、アダムとイヴは知っていた。 そんな中にも確かに、愛はあると… 完
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