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「お母さんっ!!しっかりしてっ!!」
母親の足元は…出血してしまったのか、赤く濡れていて…とにかく側に駆け寄ると、掠れた苦しそうな声で『お父さんに連絡して』と聞こえてきて…。
「分かった!!待ってて!!」
雅也の手をぎゅっと握りながら、電話をかけるために走り出す。
お父さんはお仕事中なのだから、緊急事態以外、絶対にかけちゃいけないよ…と言われていた電話番号を、震える指でプッシュする。
「にーちゃん……」
「大丈夫!!大丈夫だからね、雅也」
次第に大きくなっていく不安を弟に見せないように、精一杯の笑顔を作って返事をかえす。
忙しいのであろう……なかなか繋がらないコール音を聞きながら「がんばらなきゃ。僕はお兄ちゃんなんだから!!」と心の中で何度も繰り返した。
『………………はい。どうかしたのか?』
「お…お父さんっ!!助けて!!お母さんがっ!!」
しどろもどろではあるけれど、父に何とか今の状況を説明することができた。
『わかった。今、スタッフをそちらへ向かわせるから。お母さんを頼んだぞ!!』
「うん!!」
受話器を置き、急ぎ母親の元に戻る。
「お母さん!!すぐに助けに来てくれるからね!!」
かすかに頷いてくれた母親の手を雅也と一緒に強く握りながら励まして…。
駆けつけた病院のスタッフに運ばれていく姿を…玄関から見えなくなっても、2人でいつまでも見送り続けたのだった。
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