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降りしきる雨に濡れながら、しばらくそうして立ち尽くしていた俺たち兄弟だったが…雅也の小さな呟きに気付き、そちらを向いた。
「にーちゃん…お母さんと赤ちゃん…大丈夫だよね?」
不安そうに手を握ってくる弟に、心配させないようにとできる限りの笑顔を向ける。
「僕たちのお母さんと弟だよ?絶対に2人とも大丈夫!!とりあえずさ、宿題やっちゃおう。お母さんが心配したら、お腹の赤ちゃんも心配しちゃうだろ?」
「…うん!!分かった!!オレ宿題がんばるからっ!!」
ニッコリ笑って子供部屋に走っていく弟を見送ると…その場にガクリと膝をついた。
身体の震えを自分で止めることが出来ず、沸き上がる恐怖心を抑えたくて、拳を噛み、ぎゅっと目を瞑ってそれに耐える。
…もし…お母さんが死んじゃったらどうしよう。
一緒に赤ちゃんも死んじゃったら…。
考える事がどんどん辛いほうへと進んでしまい、もうどうすることも出来なくなっていた。
「神様…神様、お願いします。どうか、お母さんと赤ちゃんを助けて下さい。僕…赤ちゃんをうんと可愛がるから…お母さんのお手伝いもちゃんとしますから…もっといい子になるから…だから2人を守って下さいっ!!」
荒れ狂う空に向かって、ひたすらに祈りを捧げることしか出来なかった俺を、ふわりと温かいものが包み込み…。
そちらへ目線を動かすと、そこには優しく微笑む父がいた。
「紀幸…ありがとう。お母さんも赤ちゃんも頑張ってるから…。あとはまかせろ!!」
「………うん!!分かった。こっちはまかせて!!」
父に抱きしめられて安心できた俺と、忙しいなか病院を抜け出して、家に残された子供の様子を見に来た父。
信頼しあう父子2人でハイタッチを交わし、お互いの武運を祈ったのであった。
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