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食事も終わり、父親が自室に戻ったあと、テーブルの上の空いたお皿を集めながら、紀幸は満足げにそのお腹を撫でた。
「しぃちゃん!!美味しかったよ♪また腕を上げたんじゃない!?」
「んなことねぇよ。腹が減ってたから美味く感じたんだろ?それより早くそれをこっちに運んできてよ。ガッコ遅刻しちゃうから」
「はーい!!」
どちらが兄なのか分からないような会話をしながら…紀幸はささやかな幸せを噛みしめた。
普段は異国での寂しい独り暮らし。
立派な外科医になるための修行中の身なのだから、それは仕方のないことだけれど。
将来は父親の跡を継いで、この松代総合病院と地域の医療体制を守っていかなくてはならないから。
もちろん、あちらにだって友人はたくさんいるけれど、やはり長兄の心を満タンにしてくれるのは…可愛い末弟ただひとり!!
それを改めて確認しつつ、食器洗い機に皿を並べていく紫峰をじーっと見つめていると…。
「兄貴は今日どうすんの?」
「…へ!?」
「兄貴の部屋…ベッドメイキングしといたからさ、まずはひと休みしてよ。夕飯うちで食べるんなら用意するし、出掛けるんなら…」
「しぃちゃんと食べます!!出掛けませんっ!!」
「…何か…力説だな。…うん、分かった。じゃ、行ってきます」
さっき…父との食事中、紫峰の姿が見えなかったのは、休むための部屋の準備に行ってくれてたからで。
「ありがとう、しぃちゃん!!気を付けて行ってらっしゃいっ!!」
玄関先で嬉しそうに…まるで小さな子供のようにブンブンと手を振る長兄に見送られて、愛用の自転車に跨がった紫峰は…。
恥ずかしさのあまり、あえて後ろを振り向くことなく、力強くペダルを漕ぎ出したのであった。
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