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しかし、そんな折に私はある一つの可能性に思い至ったのです。
それは絶望寸前にまで追い込まれた私たちに差し込んだ希望の光でした。
ーーゼクス様はどうやって異世界などという発想に行き着いたのか。
考えても見れば単純な話だったのです。引きこもりの駄王であるゼクス様が、外界……それも異世界に行く何てことは考えられなかったということ。
しかし、ゼクス様は実際異世界転生という魔法を完成させ、消えて見せた。
そしてそこには、何か確実な切っ掛けがあったはずなのです。
あの面倒くさがりで、引きこもりで、ニートで、オタクで、覇気のない、街でこの人が魔王様なんて言うと「え!? こんな人が魔王様なの!?」なんて言われる駄王が、超難解な異世界魔法を一から全て作るなんてことするはずがなかったのです。
そして、私の想像は正しかった。
魔王様の部屋。その本棚。
そこに、それはあった。
それこそが『子どもの夢も幻想も纏めてブチ殺す、現実を知らしめる魔法の解説本!』だったのです。
その本の内容は、小さい頃誰しもが夢みる、強く、美しく、幻想的な魔法ばかりを載せているもので、最初はそれらの魔法の歴史、効果、素晴らしさを事細かに説明していました。
時を遡る魔法とか、体をドラゴンに変化させる魔法とか、いかにも夢のある魔法ばかり。
これを手にとり読んだ子どもたちは恐らく、この冒頭の素晴らしい説明で一気に引き込まれたことでしょう。
そして思うのでしょう。
「この魔法はどうやったらつかえるのかな?」と。
子どもたちは希望と夢を持ち、ワクワクしながら本を読み続けるはずです。
読み続けて、読み続けて、読み続けて。
そして、絶望するのです。
興味を惹きつけ、魅せつけ、そんな夢のような冒頭の最後に締めくくられた言葉はたった一行。
『これらの魔法は存在しません。今からその幻想をぶち殺します』
そして始まる、夢も希望もない現実の話。
とても子どもに見せるようなものじゃない残酷な事実。
それを、この本は最後の最後でこれでもかと言うほど説明するのです。
子どもたちはもう涙目でしょう。なんせ折角抱いた夢と希望を一瞬で叩き潰されるのですから。
それが作者の狙い。
作者ーーつまり私の狙いなのです。
これは私が直々に制作した本で、幼い頃のゼクス様の幻想をぶち壊すことが目的でした。
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