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耳に入るのは、芹沢鴨の卑しい声、泣き叫ぶその他人間の声。
それと、芹沢に制止をかける仲間の声。
夜の闇を色鮮やかに染める真空の炎は、美しいの他に言い様がなかった。
「松平のお殿様に、ご報告しなきゃな…。」
低音で耳に心地好い声が響けば、次の瞬間には少女の姿は消えていた。
少女の名は狼子。
本当はもっと別の名があったのだが、少女はその事実を知らない。
しばらくすると、先程まで狼子がいた場所に漆黒のカラスが止まった。
カラスの目は、無機質に芹沢へと向けられる。
色を映さないカラスの瞳には、深紅の炎など分かる筈はない。
しかし、カラスの瞳は炎を愛しく眺め、芹沢を見つめた。
その頃、少女は。
「…松平のお殿様、成り行き屋でございます。」
静かな屋敷の静かな庭に、狼子の声が響く。
ここは、会津藩主松平家の屋敷。
辺りを多くの自然に囲まれた大豪邸である。
「……入れ。」
中の声に御意と告げ、狼子は藩主松平容保の寝所へと足を踏み入れた。
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