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武士はその村という単語に、小躍りしたい程に喜んだ。
「近くに村があるのですか?もしよろしければ拙者を案内して頂きとうございます、もう三日も何も食うておらぬのです。」
女の声は帰ってこない。怪しんでいるのだろう。
(これは難儀じゃのぅ…)
武士は信用を得る為に自らを明かし出した。
「拙者の名は春戸(はるど)と申す!丸内家の家老であった!」
「家老であった…?」
声はまだ疑いを解いていない。
「いかにも!しかしながら丸内家は土屋家に破れ、城は落ち、私も流浪の身となったのです。」
「そうですか…それは…」
哀れむような声である。春戸も少し情けなくなった。
するとガサガサと春戸に音が近づいてきた。そして
(おぉ…なんと…なんと美しい!!)
月明かりが照らし出す若き女の顔は春戸の目を暫く奪った。
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