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「あ、あの・・お侍様?」
「ん、おぉ。これは失礼」
春戸は慌てて娘の顔から目を逸らす。
因みにこの時代の一般常識から言って、ひと気のないこの場所では女が男に襲われたとしてもなんら不思議はない。
しかし春戸の頭の中にはそのような邪な考えはなかった。
そこが、彼は唯の品のない落ち武者ではないことを証明していた。
「失礼、近くに村があるとおっしゃられましたな?」
春戸は敬語を使う。
「はい、この近くには村は一つしかありませぬ」
「村の名は?」
「枇杷村(びわむら)と言います。」
娘は守ってやりたくなるようなか細い声で答えた。
春戸は手に持っている地図を再び広げると、枇杷村を探す。
そして妙な顔をした。
「枇杷村。確かにこの地図には枇杷村はありますな。しかし、枇杷村以外にも村はいくつかあるようですぞ。」
先ほどの娘の言と矛盾している。そのことを春戸は気にした。
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