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「枇杷の実でございます。私これしか今はもっていなくて・・」
今度は娘が恥ずかしそうに顔を下に向けた。
「かたじけなし、ありがたくいただきまする。」
春戸は月明かりに照らされた枇杷の実を数個を娘から受け取った。
「では、案内いたしまする。」
春戸は頷くと娘の後に続く。
そして枇杷の実を彼は齧った。
(なんと旨い物じゃ、この枇杷なる実は・・!!)
空腹もあってか春戸にはたかが枇杷が天に生えた木から熟して下界に落ちてきた天の実のように感じられた。それを娘も感じ取ったのか
「あの、お侍様。もしよければどうぞ・・」
といって恐らく持っているであろう全ての枇杷の実を春戸に渡した。彼は一言礼を言うとそれを夢中で食った。
そしてようやく腹の虫達が少し落ち着いたとき、春戸はふと思った。
(このようなか弱き娘が、夜な夜ななにをしておったのか・・・)
しかし春戸は聞かなかった。これも彼の流儀で、武士たる者は人の流儀に口出すべきではないと信じていた。
「見えました。」
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