奴の名はイビル・グリーン

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空は清々しく晴れ渡り、見下ろす城下町を美しく照らし出す。 ここは、魔法と魔物が存在する世界セイレンで最も強大な力を持つ国ユフラ。 そして、その中心に建つ城、ユフラ城である。 下では町の商人たちが活気あふれる声で客引きを行っていた。 青いマントを羽織り、杖をつく老人が窓の外を眺めて柔らかく口元を弛めた。 杖には伝説の鳥ロックの紋章が刻まれており、その目に埋め込まれたサファイアが太陽の光で雫のように煌めいている。 この杖は代々、このユフラ王国の王だけが手に持つことを許される代物である。 現ユフラ王ローゼンは、城下町の真ん中に通る町一番の大通りを走っていく馬車をいとおしげに目で追った。 「平和というものは、人々の活力あってこそのものよの。一刻も早く更なる潤いと活力を民に与えねばならんな。 そのためにはまず経済を安定させねばなるまい」 馬車はローゼンの視力の限界範囲を越え、彼方へと消えていった。 後方の扉近くで鈴の音が鳴った。 「入れ」 ローゼンが一言かけると、扉を開けて黒髪の男が入ってきた。 眼鏡をかけ、一見して執事にも思える服装のこの男は、ローゼンの側近である。 名はブラウズ。 日夜ローゼンの右腕として働く忠実な僕である。 「失礼いたします。ローゼン様、近く計画していた商人専用の防護通路の増設に関して、お伺いに参りました」 ブラウズは手に持った書類をローゼンの机の上に置いた。 「ほほう。ちょうど今、それに関したことを考えていたところだ」 「左様でございますか。では、ここにまとめたものがございますので、お目通しをお願い致します」 「仕事が早くて助かるぞブラウズ」 「この身に余るお言葉。感謝いたします」 「下がっていいぞ」 ブラウズは深く礼をすると、足音1つ立てずに部屋から立ち去った。
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