奴の名はイビル・グリーン

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ローゼンは再び窓の外を見渡した。 窓のすぐ下にある鳥の巣から、数羽の鳥たちが羽ばたいていった。 鳥たちはとても気持ち良さそうに自由を満喫しているように見えた。 「この国は今、平和に向かって一歩ずつ着実に進んでいる。 人々は手を握り合い、自由な明日を望んでいる。 我々はその期待に答えねばならん」 ローゼンは一息おいて机のとある引き出しを見つめた。 その瞳の奥底には、憎しみの炎と歯痒さに似た感情が灯っていた。 「だのに奴らは我々をその牙で妨害する。 我々が踏み締めんとする一歩を妨げる」 ローゼンは空を見上げ、一人の男のシルエットを脳裏に浮かべた。 「イビル・グリーン……。奴はこの平和を目指す世の大きな壁だ。 必ずや駆逐せねばなるまい。 この残党殲滅計画を以て完全なる平和の世は開かれよう」 空には青々とした世界が広がり、その所々を雲が隠すように埋めていた。 聖暦1115年、当時セイレンを支配していた大魔王が、人間の送り込んだ勇者たちとの戦闘に敗れ、この世を去った。 大魔王が消え、この世に平和な世界が訪れる。 誰もがそう思った。 しかし、実際は大魔王の管理下から解放されただけの魔物たちが至るところにのさばる、未だ乱世と言わざるをえない世の中であった。
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