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少年は最後まで読み終わると、静かに本を閉じ、数秒間ジッと表紙を見ていた。
その表紙には大きく絵付きで『せいれいとゆうしゃ』と書かれている。
暫くすると、彼はその本を何の躊躇いもせずに、レジの台に置いた。
客が精算に来たと音で察した店主は、「いらっしゃい」と言って新聞を置き少年の前に立つ。
怠そうに体を動かしていた店主だが、彼は少年が置いたと思われる本を見て驚きを露わにした。
「お客さん。本当にこれを買うんですかい?」
聞かれた少年はこくりと頷く。
店主は暫く訝しむも、客にとやかく言うのは商売人としてご法度だと考え直し、渋々精算をした。
精算をされた本を受け取った少年はそれだけを買いに来たのか、すぐに出入り口に向かってしまう。
不思議そうな店主の「ありがとうございました」という挨拶を聞きながら、少年は店を出て暫く歩く。
ある公園が見えて来たのを確認した少年は、その公園に足を踏み入れ、辺りを見回した。
砂場や遊具で遊ぶ子供達や、その光景を見守りながら談笑する親たちと、至極普通の光景。
それを目の端に追いやりながら、少年は目的のものを探す。
そしてベンチの横にそれを見つけると、彼はゆっくりと近づいて行った。
ゴミ箱。
鉄で作られたそれは、網状を意識したのか大きな空間がいくつもできていて、とても細かいゴミは入らないようになっている。
そんな使い古されて汚れたゴミ箱を少年は一瞥すると、先ほど購入した絵本を取り出した。
暫くジッと見つめる。
そして、また一頁一頁読み返すようにゆっくりとした動作で頁を捲っていって、ある場面でその手を止めた。
その場所は精霊の降りてくる場面。
とても神秘的な感じを絵で表している。
少年はその頁を凝視したあと、勢いよく破いた。
その絵本から精霊が降りてくる場面が無くなる。
しかし、その後ろにあった頁にも精霊が載っていた。
少年は破く。
そしてそれが合図のように、彼は一頁一頁破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて破いて。
気づいたらその絵本は表紙だけの本とも呼べない代物になっていた。
少年は破く行為をやめて表紙をゴミ箱に捨てる。
地面に落としていた絵本の中身も全部まとめてゴミ箱に捨てた。
そしてその光景を数分眺め、満足したのか、口元を緩めると誰も居なくなった公園を後にした。
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