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「あなたはいつまでも若いな」
王である夫がそう言ったのは、王が来年40を迎えるころだった。
王子である子供をあやしていると、突然感慨深そうに夫がつぶやいた。
「そうね、そう。おかしいと思ったら恐ろしくなる前にわたくしを手放しなさい」
大真面目に言ったのに、夫は朗らかに笑うだけだった。
「なにをいう、私があなたを手放すわけがない。ましてや恐ろしいなどと、思うわけがないよ」
不覚にも顔が固まった。機嫌を損ねたのかと重い夫がオロオロしだすのを見て、今度は頬がおちるのかと思うほど顔が緩んだ。
ああ、幸せだ。夫と呼べる人がいて、息子を腕に抱ける、その幸せがいつまでも続けばいい。
そう思った。
だが、自分が異常であることなど自分が一番良く知っている。
周りがそれに気づくのに、さして時間など要しなかった。
「魔女だ!」
「悪魔だ!」
一度不信感をもたれれば、異端審問にかけるべきだと話が持ち上がるのにも、さして時間は要しない。
異端審問にかけられれば最後、私は日の光をあびることなど永遠にないだろう。
だから夫はそれを拒み、講義し続けた。だが、夫自身も私の異常性に気づいていたのだろう。ずっと歳をとらず若いままでいる私を、それでも愛してくれていたことは嬉しかった。
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