three.

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 城といっても崩壊寸前で、瓦礫と化した部屋もある。  そんな中、私は独り王座に座りじっと背をあずけ、もうすっかりなくなってしまった夫の残り香を探していた。  みなが泣き叫び絶望し激昂し、この天変地異を呪っていた。雷と雨の音。重く黒い雲。  だけど、私はいつになく心穏やかである。かつて私の故郷は戦争の業火に燃やされ、私を取り残して森に変わってしまった。あのときあげた声とは似ても似つかない叫びが、遠くで響いた気がした。  だけど、今度は違う。私もこの渦中にいる。取り残されて叫んでいた私はもういない。  結局私はなんだったのだろう。神の子なのか、天使なのか、魔女なのか、悪魔なのか、人間なのか。  母も父も人間で、弟も人間で、夫も息子も孫も、孫のこどもも、孫のこどものこどもも人間だった。人間と同じ速度で成長し、歳をくい、死んでいった。自分の腹から生まれた子が私の見目の年齢を超えていくのも、さらにその孫が越えていくのも、最早悲しいとすら思えない。
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