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「逃げないよ」
かすかに笑いかけると、彼女はじっと黙った。なにを考えているのか、私のことをじっと見つめている。
「おまえさまは逃げないの?」
と聞くと、彼女は「逃げませんよ」とケロリと言ってのけた。
「父上さまも兄さまも逃げました」
「そうね。逃げたね」
「どうしてあなたは逃げないのですか?」
神妙な顔をしていう彼女に、私はおかしくなって笑った。
こんなふうに人と話すのはいつぶりだろうと思った。
「怖くないのですか」
笑ったことに怒ったのか、少しむっとしながら彼女が言った。
ああ楽しい、と思った。人と言葉を交わすのは何べんもあったのに、どうして今私はこんなに楽しいのだろう。
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