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だけど、彼女はきゅっと唇を結び、泣きそうな顔をした。ああ、無理をしているのだと思った。この子は賢く聡明で、逃げても無駄だとわかっている。
生きたくないわけがない。だけどそれを口にしたら、きっとどうしようもなく叫びたくなるから、我慢しているのだろう。
「大事な人が私を取り残して死ぬことに比べたら、私が死ぬことはちっとも怖くない」
彼女が言っているのかと勘違いした。けど、彼女は目を丸くして私を見ていた。
ああ、今のは私がいったのか、とぼんやり思って笑ってしまった。なにがおかしいのかさっぱりわからないけれど、笑ってしまった。そして、彼女を手招きしてそばにくるように呼んだ。
おずおずとそばに来た彼女の頬を、かつてしわくちゃの枯れ木のような手で母が私にしたように撫でてみた。
温度のある肌だった。
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