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大広場に向かうにつれ、人の死体が目に付く。途中、人の死骸に足をとられて転んだ。せっかく母のために積んだ花が、やけおちた墨の家の残骸に転がる。
痛みに構わず、足をとった死骸を見た。
声が漏れた。けど、それが声といっていいのか、自分でもわからないほど醜い声だった。
転がっていたのは、こどもを守るように覆いかぶさった妻だった。
ああ、と声がこぼれて、妻を起こした。顔が半分つぶれていた。
「う……」
うめき声に顔をあげると、声の主は妻が命をとして守ったのであろう細い8歳ころの少年だった。
私の知る弟の子供ではないことはすぐにわかった。でも、顔は妻によく似ていた。もしかしたら、妻のつれごだったのだろうか。それとも、目の前にいたこどもを、妻が守ったのだろうか。
それを確かめる術はなかった。
少年の上半身を抱き起こし、浅い息があることを確認した。
「お願い目をあけて。なにがあったの」
必死にそう尋ねる。少年はうう、とうめくと目を開けた。半分ほどの薄目をあけると、少年は笑った。
「おねえちゃん、天使?」
か細い、まだ高い声を、祈るような気持ちで聞いていた。なにを祈っていたのかは自分でもよくわからなかった。
「僕、天国にいけるんだね。よかったぁ。ねえ、天国に行ったら、おかあさんとおとうさんにあえるかなぁ」
囁くほどの小さな声量で、少年が息の混じった声を吐き出す。
ああ死なないで、死なないでとおもった。
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