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だけど私の願いなど裏腹に、少年は私に抱きかかえられて笑いながら目を閉じた。
死体が、家が、村が、やけこげた異臭が鼻に突き刺さる。まるで雪に吸い込まれるような静けさの中で、遠くの山からドォン、と地響きのようなものがなった。ああ、こんどは向こうで何かを燃やすのかとおもった。
ひくっと、喉の奥から呼吸がこぼれた。それがなんなのかを理解するよりも先に、私は叫んでいた。
それを他人が聞いていたらなんと思ったのだろう。獣のようだったろうか。怒る神だったろうか。わからないけど、とにかく人間じゃない声だったろう。声とすらもよべない音だったろう。
真っ暗な空に向かってほえた。喉がチリチリと痛みを訴えて、息が切れると高い呼吸音をあげて息を吸い込み、また叫んだ。ほえた。
ああ。私は、この生まれ育った私の村を愛していたのだと思った。
この村は決して私に優しくなかったけれど、愛していたのだ。不幸だったこの村での人生を、しかし私は愛していた。私を愛し、憎んだ両親と弟が愛した村だった。
その年の暮れ、戦争が終わった。
焼け爛れた村に、ぽつんと残ってしまったかつて私を隔離していた離れ。そこに私は残った。
村の人の墓をすべて掘って埋め、花を探してさまよい歩いては墓に添えた。冬の深い雪に村が覆いつくされると、そこに人が住んでいたなどとは到底思えない、ぼこぼこの雪原へと変わった。
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