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 それから30年近く経っただろうか。  戦争の傷跡など何もなかったかのようにあちこちで村が起こり、復興し、町になり、国が立て直った。  住んでいた村は深い森になった。深い森にかこまれた私をかつて隔離していた離れに、私は住み続けていた。庭には食べ物や薬草を埋め、あるときには遠くに出向いて買い物をした。家には長年溜め込んだ書物が蓄積されていった。 ヒマをもてあました私は勉学というものを積み重ね、庭に埋めた薬草を調合して薬をつくることにしばらく没頭した。作った薬は町に出向いたときに行商に売り、それから得た利益でまた本を買った。  このとき私は20歳くらいの見た目のままで止まっていた。母に似て、日の光があたるたびにキラキラ光っていた金髪は白くなり、もう自分でも自分が何者なのかわからなかった。  歳は数えるのをやめたからわからないが、恐らく80手前くらいだろう。確実に父と母が生きていた齢をとうに超えたのに、見た目はずっと若い。もはや母にも父にも、ましてや弟にも似ていないように思え、森の中に住んでいるせいか自分がどこともつながっていないように見えた。
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