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**the past**
仁と俺はいわゆる幼馴染みだった。
同じ病院で産まれ、同じ地域に住んでいた。
俺の母親と仁の母親は産婦人科で出会い意気投合した。
産まれてからは子育ての悩みを互いに相談しながら家族ぐるみの付き合いをしていた。
ただ違うのは家は古いアパート暮らしで裕福な家庭ではなかった。
仁の家は普通よりは良いエリートサラリーマンの一戸建ての家庭だった。
だけど、さほど問題なく俺達二家族は毎日を楽しく過ごしていた。
──あの日まで。
小学4年の夏
蝉が煩くて、照り付ける太陽で汗だくの暑い夏休み初めの頃。
仁と遊び終わった俺はアパートへと足を走らせていた。
お腹が空いたのと、見たいテレビがあったから急いで帰った。
アパートに到着すると息を整えドアノブを回し玄関へと入った。
「おかーさん!ただいまー」
──??
いつもなら玄関のすぐ横のキッチンから顔を出して“おかえり”って返事があるのにその日はなくて…
玄関でシューズを脱ぐとキッチンへ行き足を進めた。父と母の寝室から人の気配がしたから──
「おかーさん?いるの?」
ヒョコッと部屋を覗いたら何故か服の乱れた母と仁の父親がいた。
クーラーのない我が家は扇風機で暑さをしのいでいた
扇風機が母と仁の父親を直撃していたのに二人は汗だくだった。
「─っ、早かったのね和也。おかえり…」
母は一目で動揺しているのが分かる程よそよそしかった。
「…うん。見たいテレビがあったから。
おじさん…来てたんだ。仁がおじさん…海外に出張に行ったって言ってたんだ、けど…」
そう、おじさんは昨日から海外に出張だって、さっき仁に聞いたんだ。
去年からおじさんの出張が多くて、仁のお母さんが機嫌が悪くて、八つ当たりされちゃって困るって
仁がブーブー文句言ってたんだ。
「ああ!そうなんだよ。海外出張なんだ。ただ雪乃さんに大事な用事を頼まれていたから予定を1日ずらしたんだよ?
もう用事は終わったから今から急いで空港に向かう所だったんだ。」
おじさんの額から汗が一筋流れる
それはこめかみを伝い古びた畳へとポトリと落ちた───俺は何故かそれを見たまま動けなくて…
「じゃあ、おじさん行かなくちゃ。和君、またね!」
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