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ワヤンの事情
「おい、手応えはどうだ?上手くいきそうか?」
路地の一角の古い家。
そこで数人の男と、その家族らしき人達が話していた。
「なかなか手ごわいな…かなり疑ってる」
「そうか…最近はガイドブックなんかにジゴロの事も載ってるからな…昔みたいにすぐには金出さないからな~」
「とにかく、俺たちの生活がかかってるからな!上手くやってくれよ 兄貴」
「あぁ…」
男が外を眺めている。
家族の生活の糧は、この家の男達にかかっている。
男達は、定職はあるものの それだけでは生活出来ないから、外国人の女性を相手に金を稼いでいる。
「兄貴」と呼ばれている男は、迷っていた。
率直に「ジゴロ」かと聞かれたのは 初めてだった。
いつもなら、ジゴロとバレると ひっぱたかれたり、なじられたりした。
だが、今回の場合は違う。
上手くごまかしたけど、あの瞳のまっすぐな眼差しは、すべてを見通しているような気がしていた。
「バリを楽しみたい」
と言っていた。
自分がジゴロだと疑いながらも、まっすぐに自分を見ている…
「…どうしちまったんだ…いつものように優しくして、金をもらうだけじゃねぇか!」
その男は ワヤンだった。
アユミに近づいたのは、金のため。
金を持ってる観光客の女に優しくして、家族の事情を話して同情させ、金をもらう。
いつものことだ。
でも、何かが違っている。
何かが判らない。
だけど、アユミを騙すのをためらう自分がいた。
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