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父が先に家に戻った後も、私は石段に座り、眼下に広がる風景を眺め続けている。
拝殿へと続く階段はかなり段数が多い上に、神社があるのは小高い山の中腹だ。
学校よりも高い建物など殆ど無いような街なので、何にも邪魔されることなく町が一望できてしまう。
私はここから見下ろす町が好きだ。
特に黄昏時は、夕日のオレンジ色の光が街全体を染めて、山の斜面に立つ家々の屋根は光を反射してキラキラと輝いて、それはもう絶景なのだ。
山の緑もこの時ばかりは色を暖色に変える。
町を流れる河も、流れで変わる反射光が夕焼けの空の色と混じり、見ていてたのしい。
そして何より、空の色と雲の色が美しい。
今まで、全く同じ色をしていたことはない。
青と黄と茜と群青と。桃色の雲もあっただろうか。
毎回変わる色彩の芸術に、胸を踊らせた。
きっとこれからも何度もこの景色を眺めるのだろう。
でも、今日のこの景色は二度と拝めはしまい。
何があっても、いつになっても、ここが好きだ。
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