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あの祖父の言葉を聞いて以来、いつか来るその日がとても怖いものに思えていた。
一体何を知らされるのか。
御神体の話をしていたにもかかわらず、突飛な発想が浮かんでくる。
例えば、突然知らされる自分の出生の秘密とか、ありきたりな想像が頭の中に渦巻いていた。
幼い自分の想像力では、昼に母が好んで観ていたドラマのセリフくらいしか浮かんで来なかったが、それを自分が親から言われたら悲しいだろうと常々思っていたのだ。
しかし、それから6年たってもその時は訪れなかった。
上手くはぐらかされただけだったのだろうと、あの時のことは忘れることにしたが、あの祖父の目はいつまでも忘れることはできないだろう。
あの時、たしかに自分は怯んでしまったのだ。
もしあれが祖父の演技だとしたなら、幼い自分が軽んじられたようで悔しささえ覚える。
あの目には恐れのような色も見受けられたが、それとは別に悲しみと愛情が溶けていたことも見つけ出せていたのだから。
祖父の目にある、自分が知らされるものへの恐怖の存在に怖くなったのも確かだが、そこに介在する自分を案ずる気持ちに今聞くべきではないと悟って身を引いたのも事実だった。
物心付く前から多くの人に囲まれてきたこともあって、人の心の機微には敏感だった。
敏感だからといって、上手く立ち回れるほど器用な人間でもなく、自身の表情筋が固くなっていく始末だ。
可愛げがないのは自覚しているが、今更改善できるとも思っていない。
何を考えているのかよくわからないと言われるこの顔で、人一倍表情というものを知っていた。
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