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言葉が足りなかったと気づいた私が縄のことを言うと、父は一瞬目を見はり、感心したように返事を返した。
そして、いつもの穏やかな笑顔で指をくるくると回している。
近くを飛んでいたトンボが、場所を変えることなく父のほうを向いて羽を動かしていた。
「あんな所にどうしていったんだ?なんかあったのか?」
静かな声で尋ねる父は、相変わらずトンボとにらめっこを続けている。
「えっと…たぬきがいて…追いかけてた」
咄嗟に嘘をついてしまったが、まぁ、たぬきが出ることなんて珍しくもないのでおかしくはなかったはずだ。
「本当に、お前はお転婆娘だなぁ」
父は心底呆れたようだ。
大きなため息をついて手を下ろした瞬間、トンボはその場から離れていった。
「逃げたね」
「お父さんも苦手なんだ。なんでかなぁ、友達で簡単に捕まえちゃう奴がいるんだが、どう真似てもダメなんだ」
変なところが似てしまったなぁ、と苦笑する父を見て、少し嬉しくなって笑った。
顔は父親に似ていると言われるが、性格は母親似だとよく言われるのだ。
性格というのは、育つ環境に深く関係するらしい。
幼稚園に上がるまでは、ほとんどの時間を母親と過ごしてきたのだから、性格が似るのは当たり前なのだろう。
でもやはり、家族なのだ。
母だけでなく、父も祖父も祖母も、皆を観て育った。
共有した時間に差異はあれど、身近なものをすべて吸収して自分ができたのだ。
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