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…臭い。なんだか生ゴミみたいなにおいがする。おまけに地面とか空気とかがひんやりしていて、まるで行楽地にあるミストをずっと噴射されているような心地だ。
僕は、静かにまぶたを開いた。でも、僕の視界は相変わらず真っ暗だった。周囲を見回してもなにもなく、ただただ真っ暗だった。
僕は身なりを確認する。学校の制服だ。二学期に開催する文化祭の準備から帰ってすぐ、着替えもしないでゲームやってたんだっけ。それで、ええと……。
そこからの記憶が僕には一切と言っていいほどなかった。つい五分前のことは覚えていたけど、三分前の記憶はゆで卵から黄身だけをスプーンですくいとったかのように、ぽっかりとなかった。
今は夜か、それとも朝か。はたまた、僕のいるここにはそういう類いのものは存在しないのだろうか。上を見ても星はなく、下を見ても目に見えないほど細かい砂ばかり。…………砂?
僕は身を屈めてその砂を触ってみる。さっきから流れている空気がそうであるように、やはり砂もひんやりとしている。指で軽くこすった砂は、微風に舞った。
どうにかして元の僕の部屋に帰らないと。本能が僕の体にそう言い聞かせ、ほぼ無意識に右足が出た。しかし。
地面につけようとしたその右足は虚空に踏み出したかのごとく地面を捉えられず、まるで断崖絶壁から一歩踏み出したかのような感覚に襲われた。
そう思った頃には時すでに遅しだった。僕の体は完全にバランスを失い、宙に舞った。最後に落ちようとしている左手を精一杯伸ばして元いたところを掴もうとしたが、そこにはなにもなく、左手は無情にも空を切った。
そして、僕の体は空中に投げ出され、真っ暗闇をどこまでも落ちていった。
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