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結局僕は、昔の生活を、彼女と過ごした二年半をずっと引きづり続けているのだ。
僕は二人で暮らした部屋のレイアウトを思い出し、二人で暮らした部屋の台所を思い出す。そこで作ったオムライスのことを思い出し、彼女と囲んだ食卓のことを思い出す。
よせよ、それはもう、過ぎ去ってしまったことなんだぜ。
段ボールの中に入っているものは、その二年半を容易に思い出させる。そして、含まれているものは、あまりにも僕の生々しい傷口を刺激する。
喪失、と僕は思う。そして、鼻で笑う。一体何が喪失なんだか。単なる失恋だろ、お前のは。彼女のそれとは次元が違う。コンコルドとスペースシャトルくらいに違う。
深く傷ついているだって? ご飯も食べられない位だって? よく言うよ。そこまで自分を悲劇のヒロインに仕立て上げられるなんて、尊敬に値するね。
たしかにそりゃ、あんたは振られたさ。完璧に、なすすべもなく。それは俺だって認めるよ。ありゃひどかったね。今まで過ごしてきた時間はなんだったんだ、って感じだね。まあ奇しくもあんたは、愛と時間が比例しないということを証明したわけだな。Q.E.D。証明終わり。その時間が振られ方のひどさと比例するかまでは、まだわかってないけどな。それは背理法かなんかで無理やり証明するほかにないだろ。せっかく理数系の学校を出ているんだから、それくらいお利口な頭で何とかして見せろよ。
手紙一枚、紙切れ一枚。さすがの俺だって、あんな別れ方ドラマかなんかでしか見たことなかったぜ。そいつを地でやれるんだから、ある意味すごいさ。それは認めるよ。ひどい振られ方だってのも認めてやる。あんたが暗記している手紙の内容を、持ち出すまでもなくね。一〇人に話せば八人は同情してくれるかもしれない。あるいは一人くらいは身体で慰めてくれる女の子だっているかもしれないさ。
でも俺が納得できないのはたった一つのことさ。あんたは他の女とも寝ていたんだろ? それも一人や二人じゃなく、一〇人も二〇人もさ。それなのに何故、たった一人の女相手にそんなに傷ついたふりをする必要がある? 彼女がお前にとってオンリー・ワンだったなんて戯れ言、一体どの口が言うんだい。
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