振られた僕と、死なれた彼女

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 でもそれは仕方のないことかもしれなかった。事実と感情の間には、海よりも深くて山よりも高い隔たりがあるのだ。彼らの想像力が欠けているわけではない。彼らが人の気持ちを分かろうとしない俗物な訳ではない。ただ単に、大事なものを失うことがどういうことなのか理解できないのだ。それに伴う感情を想像できないだけなのだ。あるいは時期が少しでも違ったならば、僕にも君の涙は感じ取れなかったのかもしれないのだ。  そう考えると、この広い惑星の上にいるちっぽけな僕たちは、幾千幾万もある選択肢の中のほんの一握りしか、想像も選択も出来ていないことが分かる。一年先には、一週間先には、あるいは一秒先にさえも、数多くの分岐がある。そして僕たちは、そのどれもを選べるような気もする。しかし結局のところ、望んだ選択肢を手に出来ることなんてほとんどない。DからSまでの五段階があるとしたら、せいぜい自分で選べるのはB位までで、そのほとんどは宝くじのはずれみたいにCやらDやらがごろごろと転がっている。結局のところびっくりするほどうまくいったとしてもそれは最終的にSだっただけであって、よく考えれば最初の段階ではCやらBだったりするのだ。そして望まない選択肢の多くは、僕たちに深くて取り返しの付かない種類の痛みを与えるのだ。
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