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後者だったら、と僕は考える。それはそれで、あまりに悲しい。そして、救いがない。僕にとっても君にとっても。
「ねえ」
君がかすれた声を出す。僕は声を出さずに、君の方を向く。その声は、僕を呼んだと言うよりも壁に書かれている「ね」と「え」の文字をゆっくりと読んだだけのように聞こえた。君は僕と目を合わせても、しばらくの間じっと黙っていた。まるで何かを推し量っているように。それがこの星の行く末についてなのか、それとも雨の日にアリの行動についてなのか、僕にはさっぱり分からなかった。ただ君の平坦な瞳を見て、いつでも受け入れられる体勢を取るばかりしかできない。君は質問にすぐ(しかも上手に)答えないと、すぐそっぽを向いてしまうから。
「やっちゃったね」
君の口からつぐまれた言葉は、僕が一切想像していなかった言葉だ。下世話で下劣な言葉。僕は動揺し、こわばった笑顔を浮かべてしまう。君ははにかみながら、僕の胸に肩を押しつける。それは男性に寄りかかると言うよりも、すぐそばにあった壁に疲れたからよりかかった、というような感じだ。
「三ヶ月ぶり」表情のない笑顔で続けるから、いよいよ僕はどう切り返せばよいのか分からなくなる。仕方がないので、こっちは一ヶ月ぶり、と返す。その回答は君の気に入ったようで、満足げに頷く。
「A型っぽいセックスだった」
「そう?」
ん、と吐息とも返事ともつかない声を上げて、君はその細い身を起こす。僕の目に映る背中は、まるで白い花瓶のようだった。細いくびれは、いやでもつい数分前の射精を思い出させる。僕はやれやれ、と思う。A型っぽいセックスって一体どんなセックスなんだろう。
君は起きあがると枕元にあったマルボロとライターを手に取り、無造作に一本咥えて火を付ける。薄暗い部屋にカペタみたいな光が浮き上がり、すぐに紫煙へと変わる。君は二口ばかり吸うとほとんど灰になっていない煙草を灰皿に押しつける。君はなぜ煙草なんて吸っているんだろう、思う。私にとって、この一本二〇円の棒を消費することは、一体なんのメリットがあるんだろう。
灰皿から煙が上らなくなったところで、君はふと気付く。
早く死ねると。
「タキザワ君はさ」
「ん」
「死後の世界ってあると思う?」
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