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「では、行きましょうか」 「…………」 それは会話が一段落した後の一言だった。 言われるがままシートベルトに手を伸ばし、 そこでいったん、動きを止めた。 「あの……どちらへ?」 「高倉さんのお宅に……ですが?」 ステアリングを切りながら、 さらりとした返事が返ってきた。 「…………あ。そうですよね。ははっ」 一瞬、食事にでも行くのかなって 期待した自分が、スゴく恥ずかしい。 シートベルトを引っ張りながら 横目でチラッと様子を伺ってみる。 ……やっぱり、よく分からない。 こうして、わざわざ会いに来たかと思えば やけにあっさりと家まで送ろうとしたり。 そのくせ友里亜には、わたしの『彼』だと…… そう解釈されても仕方のない発言を 平気で言ってみたり。 マジで……意味不明。 この人の本意が、まったく見えない。 その涼しげな表情の裏側で、なにを思うのか…… 私には、さっぱり見当がつかなかった。
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